言ってることは巧いよね
いや、本当にすばらしいのかもしれないけどね
“中途半端に”頭が良いだけではつまらない 壮大な理想を掲げ、クレイジーに突き進め――テラモーターズ・徳重徹 | 先駆者たちの挑戦|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー
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実際にお邪魔してみて、噂通りの4畳半のオフィスで驚きました。
徳重徹(以下略) 「ずっとこのままなんですか?」とはよく聞かれます(笑)。私がオフィスを大きくしないことには、2つの意味があります。1つは、そもそもオフィスに意味がないと思っているから。オフィスに籠っていては仕事になりません。
もう1つは、社員の感覚が狂わないようにするためです。うちはアジアでさまざまな事業を展開していて、その事業は社員に任せています。任せられた社員がコスト感覚を持つことは非常に大事ですし、経営者の私が緩くなると社員も緩くなります。
大企業からアジアに派遣された人を見ると、感覚が狂ってしまっていると思うことは多いですよ。あまり働かなくても車がついて、メイドもついて、普段はゴルフばっかりやっている。本社からは、女性問題でトラブルを起こすよりは、ゴルフが上手くなったほうがいいと言われた人もいました。「え?」と耳を疑いましたけど、本当にある話なんです。
そんな状態では、現地の人から尊敬もされませんし、自分は開拓者であるという自覚を持てません。
――徳重さんは、海外で日本人が戦ううえで何が大切だと考えていますか。
グローバル人材について書かれた本を読むと、その多くがコミュニケーション力、英語力、次に相手の文化を学ぶことが大切だと言っています。もちろん、それも大切なのですが、それよりも重要なことは、仕事に対する自分の軸、そして自国や民族に対する誇りを持つことだと思います。
アジアの新興国のリーダーで本当に立派な人物は、国や産業のことを真剣に考えています。金儲けばかりを考えている人が一人もいないとは言いませんが、リーダーと呼ばれる人は尊敬されていて、周囲にもいい人が集まっていますね。
――どんな瞬間に、彼らの真剣さを実感しましたか。
いま、バングラデシュで合弁を進めています。私たちはパートナーでもありますが、そこにはやはり厳しい交渉があります。こちらが厳しい条件を突きつけたとき、向こうからこう言われたんですよ。「わかった、その条件は呑もう。ただし、我が社はローカリゼーションを進めたい」。なぜローカリゼーションかというと、バングラデシュに産業がないからです。現地で部品をつくれば産業ができ、雇用も生まれます。そういうことを常に考えているのです。
ベトナムで自動車の組み立てを請け負う企業の社長も、同じようなことを言っていました。ベトナムの自動車産業は、国家単位で見るとタイに負けています。だからこそ、ベトナムのために自動車産業の復興をしたいと本気で考えていました。台湾のリーダーもそうでしたよ。中国という大国に依存せずに、自分たちどうやって生きていくのかを語られました。
現地のリーダーがそういう思考でビジネスを進めているにもかかわらず、こちらが単に金儲けだけという思想で行くと、絶対に尊敬されません。だからこそ、私も日本がどうあるべきかを考え、そのためにこの挑戦をしているという文脈で語るようにしています。それぞれの国の考え方があり、利害が相反することもありますが、互いを尊重しながらビジネスを進めることができるからです。日本には、そういう人があまりいないと思います。
自分の軸を持ち、自国をこうしたいという信念があれば、それはコミュニケーションや相手の文化への理解を超えます。スキル云々以前に、それが本来あるべきなのです。すぐにできるわけではありませんが、それがなければそのビジネスは何の意味も持ちません。
――あるインタビューで、日本人には、そもそもコミュニケーションを取りたいという気持ちが欠けていると仰っていました。
そうです。私自身の英語もブロークンですし、うちには私より上手く話せる若い社員はたくさんいます。ただ、たとえば会合が終わったとき、どちらが相手をインスパイアしているかというと、遙かに私のほうなんですね。
「こういうことをやりたい!」という情熱を伝えるうえでは、語学力が前提になりません。また、どういう文脈でこの事業を進めるべきかと論理的に話すうえでも、英語力は無関係です。それを持っている私と、そうではない人間とでは、相手を動かす力が違う。