はりこ~

検索貼り付けブログ。身勝手ながら基本は個人用の予定。

新機軸の導入と奇禍と薀蓄か。ギミックは必要なんだね。

 日本の春画は一流の絵師が描いているから、絵画作品としてのレベルが高い。海外の春画コレクターからそんな感想を聞いたことがある。欧米ではかつて、一流の画家がエロティックアートを手がけることはなかったのだという。

 そんなクオリティの高さもあったか、春画は庶民のみならずセレブにも愛好された。江戸時代には、正月になると大名のあいだで贅を極めた春画を贈り合う風習もあった。それらは主に錦絵だったようだが、月岡雪鼎(せってい)による作品もその豪華さから顧客はセレブだったと考えられる。

■ダイナミックに局部を誇張

 春画といえば歌麿や北斎に代表される江戸の錦絵を思い浮かべる方が多いだろう。だが雪鼎は彼らより少し早く大坂で活躍した絵師で、肉筆を主戦場にした。その春画表現の特徴のひとつとして、局部の誇張を指摘するのは雪鼎研究の第一人者である山本ゆかり氏。

春画は12図セットが基本で、この作品同様、おとなしめの第1図からはじまり、徐々にステキな事態が展開されていく。月岡雪鼎《春宵秘戯図画帖》全12図のうち第2図 天明(1781~89)中期 個人蔵

「祐信の時代まではごく控えめだった陰毛や性器の描き方が、より微細に、よりあからさまになり、その傾向は春本でも認められるのですが、肉筆春画でよりいっそう顕著になる。(中略)江戸では、春信までは祐信ふうの控えめな表現で、次代の湖龍斎あたりから局部の誇張が目立ちはじめ、勝川春章(かわかつしゅんしょう)あたりから『大首絵』と『大開絵』(開は『つび』と読み、女性器の意、もちろん『おおくびえ』のもじり)を口絵の前後にセットで描くという形式が定着していきますが、雪鼎の例はそれに先駆けるものではないでしょうか」(「芸術新潮」2015年1月号より)

 言及された大開絵にビックリするいっぽう、巨根ぶりは爆笑モノ。海外では「ウタマロ」=「巨根」の代名詞にもなっている現在だが、誇張表現の元祖は雪鼎だったか!?

■火除け効果で画料10倍

 さらに雪鼎の肉筆春画には火除けというセールスポイントがあった。実際、冒頭に「厭火避妖」の4文字が大書されたものが現存する。火除け伝説の発端は、明和年間(1764~72)に京都で起こった大火だったようだ。洛中洛外ことごとく焼きつくされたなか、倉庫が一軒だけ焼け残っていた。いぶかしんだ人々が調べたところ、雪鼎の春画が出てきたという。史料によると、以来、画料は10倍にはね上がった。

 また雪鼎は教養人でもあったようで、春画なのに、小難しい考証随筆や歴史書などを列記した参考文献や、春画史とともにその高尚さをつらつら綴った序文を付している。それにより「インテリ春画」の様相を呈し、ありがたみ倍増の感。
 
 とはいえ、やはり驚嘆するのは大胆な描写なんだけど。

「芸術新潮」1月号では、春画特集に合わせ、2014年に連発した局部騒動についても解説されている。ろくでなし子の逮捕(釈放されるも12月に再逮捕)、鷹野隆大の写真作品撤去命令、海外ではオルセー美術館で女性アーティストによる大股開きパフォーマンス。芸術と猥褻をめぐる問題を、小誌記事「股間若衆」でおなじみの木下直之氏が考察する。

デイリー新潮編集部